前のめりに生きる。一歩踏み出せば決してコケはしない。

生きるって大変、でも、だからこそ素晴らしい!

だからどうか、手を離さないでほしい

 
9月19日17:30
僕は、大雨のなか四国にある故郷に向けて車を走らせていた。
高校時代の友人、Sに会うためだ。
激しく打ちつける雨を、右に左に、忙しくワイパーがかき分ける。
かき分けてもかき分けても視界が晴れないのは、決して雨のせいだけではなかった。
 
 
Sは、高校で知り合った友人だ。
持ち前の優しさとユーモアで、誰からも慕われる男だった。
高校1年生のとき、負けた方が下の毛を全剃りし、無垢な少年になるという罰ゲームを賭けてバスケ部だった彼に無謀にもフリースロー10本勝負を挑んだ。
当然、僕が負けてパイパン生活を送っていたが、痛み分けだと笑ってSも自ら半分だけ剃った。中途半端に剃ったおかげで、授業中ずっと痛みとかゆみに震える彼の背中を思い出し、運転する車内で一人思い出して笑った。
 
高校3年生の冬、僕はSと2人で九州に向かうフェリーに乗っていた。
お互い違う大学だったが、同じ日に受験だったので一緒に向かったのだった。
僕は志望大学が勉強しなくても余裕で入れるおバカ大学だったため、すでに合格を決めていた。のだが、散々学校に迷惑かけてきたのだから、国立大学の1つや2つ、学校の名誉のために合格して来いと先生に送り込まれたため受けることになった。
一方のSは、心理学を学びたいと、難関大学を目指しているなかでの肩慣らし受験だった。
フェリーのタコ部屋で相撲し、笑い、散々楽しんだあと、車座になって一献傾けるおじさま連中に「君らも一緒に呑むか」と誘われて混じることとなった。もちろん、学ランは脱ぎ捨てた。とはいえ高校生なもので、お酒を呑んだとは言わない。お酒の席の雰囲気を味わった。今でも覚えている。「それから」という麦焼酎だ。
夏目漱石ですねと言いながら大人の会話に混じった僕たちだったが、おじさんたちは夏目漱石には興味がなかった。だめだこりゃと、顔を見合わせて笑ったSの笑顔を思い出す。
九州について、お互い受験を終えたあと、再び合流した。
「やっぱ温泉でしょ」と、見知らぬ土地を歩き、屋上に露天風呂があるホテルを見つけて入った。平日の昼間だったので、入浴客は僕たちのみだった。
青空の下でお風呂を満喫し、お互い意味もなくケツキックし合った。
二人して素っ裸で九州の街並みを見下ろす。
当然、二人とも毛は復活している。
「なんだか、生きてるって感じするなあ」と、Sの横顔は嬉しそうだったーー
 
 
9月19日20;00
3連休最終日だからか、渋滞に巻き込まれ、ゆっくりと進む。
遠くまで続く赤いテールランプの列を眺めながら、Sのことを想った。
そういえば、あの日も雨だったなと、大学1年生の5月を思い出す。
 
 
Sは、高校を卒業して大学浪人することに決めた。
これからはアルバイトしながら勉強に励むというSを励まそうと、
高校の友人4人で沖縄旅行に出かけた。
澄み渡る青い海ときれいな空を期待した僕たちだったが、沖縄に着いた途端に土砂降りの雨。やってられっかと、早々にホテルに入り一日中酒を呑んだ。
海で泳げなかったから酒に溺れようということで、海パンに着替えて呑みまくった。
Sは、大学の話を聞きたがった。気を遣われたくなかったのだろう。
 
翌日、荘厳なまでの快晴に恵まれたものの、僕たちは激しい二日酔いに悩まされ、気分の方がどんよりしていた。海で全く盛り上がらないクラゲ合戦をして、完全回復した昼から散々はしゃいだ。Sは一人だけ元気だった。彼はとてつもない酒豪だったーー
 
 
9月19日21:00
四国に入り、べつの友人Kと合流。
「あとは俺運転するよ」と言ってくれるKに運転を任せ、僕は助手席へと移る。
目的地までまだ3時間以上の長い道のりだ。夜中12時に到着し、すぐにまた関西まで運転して帰らなければならない僕を気遣ってくれたのだった。
神様がぎゃん泣きしているみたいに、雨はより一層激しさを増した。
ラジオから無意味に垂れ流れるクラシックミュージックは、
雨音に邪魔されてとうとう雑音に成り下がる。
手を伸ばしてラジオを消しながら、Kはぽつりと言った。
「やっと会えるな」
僕は、「ああ、やっとだよ」とだけ答えた。
 
大学2年の冬、実家に帰省し、いつものメンバーで集まったときのことだ。
いつも通り散々呑み倒したあと、Sは言った。
「俺、今年もだめかもしれない。もう遊ぶのも辞めて、取り組まなきゃいけない」
つまり、もうこれから先俺は誘ってくれるなという意味だ。
あとで、Sの親父さんが教えてくれた。
ある頃から自分の負い目を感じ、友人知人との関係を断っている状態だったと。
思えば、その頃僕たちがしてやれることがもっとあったかもしれない。
「この先、学校があろうがバイトがあろうが、就職して仕事があろうが、お前が呼んでくれたら俺たちいつでも集まるから」そう言って別れた。
ありがとうと笑うSは、いつも通りの素敵な笑顔だった。
彼の声が聞けたのは、それが最後だった。
それ以来、どんなメールを送っても、みんなで何度電話しても、彼は出てくれなかったーー
 
 
9月19日22:30
途中のSAでタバコ休憩していると、東京かどこかに住む高校時代の同級生から電話がかかる。弔電を送ろうと思って電話連絡を回しているんだが、君の名前も入れておこうかと。
そんなもん送って何の意味あんだよ体裁ばかり気にしやがって。しょーもない取引先上司の葬式ちゃうぞタコ。ていうかお前誰だよと言って電話を切る。隣でお前はほんと変わんないねとKがケラケラ笑う。
 
Sのことを聞いたのは、その日の夕方前だった。
友人たちとの連絡を断っていたSだったから、みんな知るのが遅れた。
お通夜が今日の18時だとのことだった。
もうお前も間に合わないだろうし、身内で小さくやりたいとのことだったから葬式も遠慮した方がいい。俺が代表してお通夜行ってくるから、今度みんなでお墓参り行こうとの実家暮らしの友人の電話だった。
「飛行機乗ればぎり間に合うかもしれねーだろ」と答えると、お前のことだからそう言うと思って調べておいたよと笑う。とてもいいやつなのだ。伊丹発は台風で欠航便もあるうえにすべて満席状態だと。
車で来ても、瀬戸大橋とかも台風で通行止めになるかもしれないし、通れたとしても夜中だぞ、遺族の迷惑にもなるぜと言われる。
何年会えてないと思ってんだそんなもん知るか。
 
悲しいに決まってるのだが、それよりも「やっと会える」という気持ちの方が大きかった。彼と再び会えるときは極端な2択しかないと少し前から覚悟はしていた。
くそ成功して負い目が吹き飛ぶほどの自分の夢を成し遂げるか、否か。
生真面目で頑固な彼を知っているゆえに、僕たちは待つよりほかなかった。
 
いくら非常識と思われようが迷惑かけようが、とにかく会いたくて仕方なかった。
ゲストハウス暮らしをしている僕はもちろん喪服も持ってない。
レンタカー借りたり高速代だったりお金使うと、たぶん3日くらい何も食えない。
そんなことどーでもいい。ただ会いたかった。
お通夜の式場の連絡先だけ聞いて、友達からの電話を切った。
 
すぐに式場に電話して、ご家族に電話を回してもらった。
自己紹介とお悔やみの言葉を述べたうえで、お疲れのところ非常識なお願いで申し訳ないが、夜中になるがSに会わせてくれないかとお願いした。
ありがとう、顔だけでも見てやってくれ、台風来てるから気を付けてと言って頂いたのだった。
 
9月20日0:20
僕たちは、やっと、彼に会えた。
8年ぶりに、やっと会えた。
本当に、相変わらずのイケメンぶりで、相変わらずの優しい表情だった。
僕は、彼がどんな人生を歩んで、どんなことに笑って、どんな苦しい日々があって、何に心動かされ、どんな言葉を発してきたのか、連絡がつかなくなってからの彼を何一つ知らない。大切な友人のくせに、何も知らない。僕たちがしてやれることがもっとあったかもしれない。本当に情けない。申し訳ないと、ご両親に頭を下げた。
これだけ友達に大切に思われているSは幸せだった、来てくれてありがとうと。
あまり長居するのも申し訳なく、もう一度だけ顔見させてくださいと言って帰ることにする。
彼に話した内容は恥ずかしいのでここでは言わないが、本当に会えてよかった。
こんな形で会うことになるのはもちろんつらい。言うまでもなく。
でも、それでも最後会えてよかった。
Sちゃん、お前のことが大好きだバカ。
俺がハゲ散らかした頃に死んだとき、お前は29歳のままなんてズルいだろ。
そのときは、またアホほど酒呑もう。バカみたいに笑おう。
一緒に下の毛剃ろう。今度は中途半端に剃らずにちゃんと全剃りしなきゃだな。
一生忘れないからね。
 
帰り際、コンビニに寄ってノンアルコールビールを買って呑む。
お前危なっかしいしいつ死ぬか分かんねーからと、写真を撮ろうということになる。
 
9月20日2:00

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なんて失礼な野郎だ。でも、大好きな友人だ。ちなみに、1歳ちょっとになるKの子供の方が8万倍大好きだ。かわいすぎるのだ。
 
僕はちっぽけな人間だ。
大好きな友人すらまた簡単に失ってしまう。
多くは望まない。
世界人類、みんなを守りたいだなんて大きな事言わない。
せめて、自分の手の届く大切な人たちくらい、失わずにはいさせてくれないだろうか。
抱き締めて離さない大きな腕と、大きな心をもった人になりたい。
これ以上、笑いかけたり報告したり、話しかけたりしなきゃいけないお墓が増えるのはごめんだ。大好きな笑顔を奪わないでほしい。
 
何かに悩んだり、思い詰めたり、負い目を感じたりして、自らでいろんなことから身を引かないでほしい。今まで繋いでいた手を、そう簡単に離さないでほしい。
握り続ける手は、時に疎ましく感じるときもあるかもしれない。
暑苦しく、煩わしく、不快なときもあるかもしれない。
でもその手は、必ず助けてくれる。
 
深い闇に落ちそうになっても、繋いだ手はきっとあなたを離さない。
道を誤りそうになっても、繋いだ手はきっとあなたを強く引き戻す。
でも、自分のためだけだとは思わないでほしい。
手を繋いでいるのは、あなたが弱いからだけじゃない。
自分がだめだから手を繋いでもらってるんだなんて思わないでほしい。
その手は、同じように誰かを救ってやる手だとも考えてほしい。
負い目を感じる必要はない。あなたのためでもあり、相手のためでもあるのだから。
 
だからどうか、手を離さないでほしい。
 

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9月21日18:00

ちょっと弱っていましたが、これからみなさんのブログ読んで元気をもらいます。