前のめりに生きる。一歩踏み出せば決してコケはしない。

生きるって大変、でも、だからこそ素晴らしい!

【いけんやつ】 思い出シリーズ

 
8月15日。
昭和天皇ポツダム宣言受諾を国民と軍人たちに対し玉音放送として伝えた日だ。
なぜ「終戦記念日」と呼んでいるのかとか(公式な名称はそうではないけど)、なぜ各国それぞれ終戦の日が異なるのかとか、そもそも8月15日は戦争終わった日でもなんでもないだろという話はしないでおく。とある50代のスペシャ国粋主義の上司とこの件に関して呑みながら丁々発止やり合い、さらには大東亜戦争戦争責任の所在はいかにと舌戦は続き気づけば朝になり、お互い眠気をこらえながら仕事に臨み「何はともあれ今を生きような」と和解するに至ったことがある。ほんとにバカ。ので、ここではやめとこう。ww
 
そんな話ではなくて、とにかくこの時期、度々「戦争」という言葉が嫌でも耳に入ってくるのだけど、この単語を聞くと、僕はいつも思い出す人がいる。
 
 
まこちゃん
 
 
小学校1年生のクラスメイトだ。
まこちゃんは、とても落ち着きのない男の子だった。
落ち着きのなかった僕が言うのだから、すごく落ち着かないのだ。
まこちゃんは、自由だった。
主体ではなく、自由を与えられていたという意味だ。
授業中、僕が席を立つと2秒で先生に怒られた。
 
でも、まこちゃんは怒られない。
 
教室から出て行こうとしたときだけ、優しく注意される。
当時、担任は40代で、サザエさんと同じような髪型をした女先生だった。先生は、とてもきれいな筆記体のサインを書くことで有名だった。
 
ある日、僕は先生に詰め寄った。
算数の時間が終わった休み時間だ。
僕は赤色のおはじきを手に握りしめて言った。
 
 
「なあ先生、なんで僕だけ注意して、まこちゃんは注意せんの?」
 
 
先生はすごく困った顔をして、声を小さくして言った。
 
「まこちゃんはみんなと少し違うの。ほんのちょっとだけね」
 
よく理解できなかった。
なんだかもやもやがさらに膨らんだ。
なんだそれ。
 
「違うことあるかい。同じ友達よ?まこちゃんも」
 
先生は、毎秒100mlの涙を目に溜めて、大きく頷き、必死に嗚咽を堪えながら泣いた。
今思うと、先生はまこちゃんの扱いを自分でも悩み、自分のなかにあるほんの少しの差別の心と、ほんの少しの戸惑いと日々戦っていたんだろうと思う。
それを図らずも小さな子供に「同じ友達」と言われ、堰は崩れたのだろう。
 
いやごめん先生。
僕の言葉には続きがあるのだ。
「同じなんじゃけん、僕にだけ注意せんといてよ」なのだ。
僕は初めてみる大人の涙に狼狽え、逃げた。ww
 
そんなクラスメイトのまこちゃんは、授業中によく手を叩いていた。
登校&下校中もひたすら手を叩く。
拍手するようにして叩くのだが、音はそれほど甲高いものではなかった。
先生もたまに、まこちゃんの両の手を包み込んで止めてやるのだが、またすぐに始まってしまうのだ。
いくら席替えしても、まこちゃんの席の隣は僕で決まっていた。
 
「まこちゃん、それ楽しいん?」
と、僕は隣の席から聞いた。
 
 
 
「戦争しよるんよ」
 
 
 
まこちゃんは、ぱちぱち音を出す自分の手を見つめてそう言った。
父に「おとなになれなかった弟たちに」という絵本をもらい、僕はそのとき戦争というフレーズをたまたま知っていた。とてつもなく恐いものだ。
 
父は、昔から「勉強は嫌いならしなくてもいい。そのかわり本はたくさん読みなさい」という人だった。毎月25日の給料日に、必ず僕と兄に1冊ずつの本を買って帰った。
おもちゃやゲームは全くと言っていいほど買ってくれなかったが、本はいくらでも買ってくれた。本を買いに行くと言ってお金をもらって駄菓子屋に直行したこともたくさんある。最低。w
その教えに背いてたくさん勉強した兄と、まさかの教え通りに育ってしまった僕。
父上はさぞ後悔していることだろう。w
 
とにかく、彼の小さい手のなかで、毎日戦争が起こっていたのだ。
まこちゃんが戦争という言葉を知っていることも驚きだった。
これは大変だと、僕もそわそわしてまこちゃんの手の中を覗き込んだ。
 
 
「なあ、まこちゃん、なんで戦争しよるん?誰が戦いよるん?」
 
「いけんやつがおるがよ」
 
 
まこちゃんは真剣だった。
方言全開だが、【悪いやつがいるんだ】という意味である。
どう目を凝らしても、僕には【いけんやつ】が見えなかった。
一度も、まこちゃんに加勢してやることはできなかった。
 
 
まこちゃんは、とうとう【いけんやつ】がどんなやつか教えてくれないまま、2年生になると特別支援学級にクラスが替わり、1か月しないうちに転校していった。
 
戦争は、何も71年前に終わったものだけじゃない。
終わったはずの戦争を未だ戦っている人もいる。
今日始まったであろう戦いもたくさんある。
ふと、灰谷健次郎氏の「太陽の子」を思い出す。

 

太陽の子 (角川文庫)

太陽の子 (角川文庫)

 

 

なあ、まこちゃん、今どうしてるのさ。

まこちゃんの戦争、終わってりゃいいんだけどな。
もし終わってたらさ、僕の貧乏との戦いに加勢してくんないかな。w 
 


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